
観光船に乗船の皆さんが傘をさしているのは雨が降っているからではないんですよ。
ここは台東区の小名木川にある東京都の治水事務所、扇橋閘門(おうぎばしこうもん)。扇橋閘門は、江東デルタ地帯を東側の荒川と西側の隅田川を結ぶように東西に流れる小名木川のほぼ中央にあって、ここで水面を上げ下げして東西で水位が違う河川を船が通航できるようにした“ミニパナマ運河“といえる施設。仕組は、2つの水門に挟まれた水路(閘室)に船を入れて、水位を人工的に昇降させることで船を通過させるというもの。
ここが8月の8日間だけ一般公開されていたので見学して来ました。
大人の社会科見学ですよ(笑)。
まずはお勉強。読むのが苦でない方はこちらの「
荒川水系 江東内部河川整備計画」を。

海抜0メートル地帯というか、干潮時でも低いのではどれだけ今まで水害にあったか想像がつくというもの。堤防をどんどんどんどん付け足して見上げるほど高くしてもキリがないし限度がありますもんねぇ。
なんでも小名木川東側の荒川方面エリアの河川は水位を1m下げているそうで、西側の隅田川エリアとの水位の差約1~3m(潮の干満による)。そこを船などが通過する際に大きな扉で挟まれた水槽のような状態を作って船を一旦停止し、東側へ通り抜ける場合は水槽の水を抜いて水位を下げ、西側へ通り抜ける場合は水位を上げ、進行方向の扉の外と水槽内の水位を同じにしてから扉を開けて通り抜けさせるというもの。
扇橋閘門の仕組み
東京のミニパナマ運河というだけあって、まさに船のエレベーター。

ところで本家のパナマ運河。
パナマ大使館のHPによると、全長80㎞のパナマ運河は閘門3ヵ所、通航平均時間は24.58時間、航可能な船舶のサイズは幅32.26m,長さ294m、通航料はバルク船(7万トン,積荷満載)の場合で約3,000万円、年間約14,500隻(1日平均約40隻)の船舶が通航、コンテナ貨物や石油など年間約2億1,800万トンの貨物が運河を経由、日本の貨物の総量は往復で約3200万トン。
何でも日本籍で最大の客船「飛鳥Ⅱ」の2013年パナマ運河通行料は約2000万円ちょっとらしい。1日平均約40隻X約3,000万円・・・ぅむ、凄い金額。
そして、1904年 から1911年にわたるパナマ運河建設に
青山士 (アオヤマ・アキラ)という唯一の日本人技術者が従事。パナマで学んだ開削・運河開設を生かすため、隅田川・荒川放水路の分岐点に立ち、両河川への水量をコントロールする岩淵水門の設計を任され、荒川放水路に付随する小名木川閘門、中川水門でも、青山氏のパナマ運河で得たノウハウが活かされたとのこと。
さて、その小名木川閘門は、通航時間は6分、通航可能な船舶サイズは90メートル、幅8メートル以下、通航料無料。観光船やプレジャー・ボート、清掃船、カヤックなどが行き交う小さくてのどかな閘門。まぁ、パナマ運河と比べちゃぁどの国の閘門もミニチュアみたいなものだけれど、東京の治水ってこんな側面があるのだな~と感じたり考えたり出来るのです。

私がいた1時間ちょっとの間に観光船2隻、プレジャーボート1隻がこの閘門を通航してました。事務所の方に聞いたところ、通航が0という日もあるし、土曜日など20隻ぐらいの通航があるとのことでした。
隅田川側から若メンズ(笑)が乗ったプレジャーボートが入って来て前扉が閉められます。水位の低い東側へ行くので、前扉と後扉の間の水槽のような閘室の水位を下げます。この時は1.7m下げていたみたいです。で、水位が下がっていく間、ボートのお兄さんはこうやってロープにつかまって船が動かないようにしてました。流れが無いと言ってもボートはユラユラするので、これだけでも結構力が要りそうですが。
私も動画を撮ったのだけれど、Youtubeにアップされているこの動画がわかりやすいかも。この映像は、水位の低い方から高い方へ通過しようとしている船で、閘室に入る前に後扉の外側で閘室の水位を下げているのを待っているところですかね。扉の前に吹き出ているのが内側からの排水です。排水・給水の際、1方向に水を出すと勢いが出てしまうので、2方向から水がぶつかり合うようにさせることによって水の勢いが弱まるようにしてるとのことでした。
閘室の水位が下がったら後扉が開いて船が中へ入り、後扉が閉められて水を上げ、前扉が開けられて傘を差して(笑)出ていくという感じです。
因みに、扉が開けられた時に水がザァザァと滝のように流れ落ちているので皆さん傘を差すんですが、この水は川の水ではなくて真水とのこと。海に近く海水が流れ込んでいるため塩分で扉が直ぐに腐食してしまうため、扉を開ける際に同時に真水で流しているんだそうです。
そうそう、閘室沿いには間近で見学出来るようにちょっとしたバルコニーみたいなものがあって、そこから閘室やそこに停止している船を見下ろすように見学が出来るんですけれど、逆に船に乗っている人はまるで見世物のように見学者から見下ろされるかたちです(笑)。

この日は一般公開のため、こうやって普段は見ることの出来ない監視所の中まで入って見学が出来、職員の方が普通にお仕事をされている中、色々と説明をして下さいました。そう言えば、東日本大震災の際には直後に速やかに全扉を下ろして閉鎖したとおっしゃってました。監視所の1階には非常用の自家発電機が設置されている大きなスペースがあって、万が一電力の供給が途絶えても作動できるとのことで、さらにそれもダメになった場合は扉の自重で閉められることになっているそう。万が一の万が一を考えて、ということですね。
監視所の外側には過去の水害や閘門のことなどパネル展示がしてあって、そう言えば私が小さい頃はどこかの川が氾濫して床上浸水したとかニュースであったけれど、近年はそれほど大きな洪水のニュースは聞かなくなったなぁ・・・、その影にこういった治水事業があり、そこで働く沢山の人たちが守っているからだなぁと。

この日はメチャクチャ蒸し暑くて、扇子でパタパタしても体中から汗が噴出し流れ落ちる感じだったのだけれど、監視所へ入ると「お水をどうぞ」と下さいました。その名も「
東京水」。さすが東京都の治水施設。私は冷えていないペットボトルを頂いて飲んだのだけれど普通に美味しかったです。

たっぷり見学して施設を後にすると正面にはスカイツリー。
大人の社会科見学凄く面白かった。地味な施設ですけどね、川のこと治水のこと、見えないところで色々考えられて、整備されて、多くの人たちが携わっていて東京の暮らしが支えられているんだなぁと。普段はそういうことって目に見えないので実感がなく、現代だし都会なんだから川の氾濫も洪水も無いでしょと思ってしまうけれど、こういう施設を実際に目で見ると、当たり前なんかじゃなくて、多くの人の頭脳と知恵と努力の賜物なんだと勉強になりますねぇ。
仕事柄、あの巨大なパナマ運河を見て見たいなーと思ったので、”東京のパナマ運河”というフレーズに反応して、一般公開されてる!行こう!と当日の朝になって思い立って行って見てよかったー。
今度は機会があれば、観光船に乗船してここを通ってみたいかも。
でも、あたりの澱んだ水がザーザーと増えたり減ったり、大きな大きな扉がギーギーと開閉するのを、谷間のような閘室で落ち葉のようにポツンと浮かんで間近にするのは何となく心細いというか落ち着かない感じ。やっぱり私はいつの前世でも絶対に陸の動物だったに違いない・・・(笑)。
水や船が怖いということは全く無いのだけれど、以前に1人乗りのカヤックでガイドさんと一緒に西表島の海や川を漕いだ時も、夢のような忘れられない楽しい体験だったけれど、何て言いましょうか、陸から離れた孤独感みたいなのを常に感じて、その時も前世はいつも陸の動物だったに違いない・・・と思ったのでした(笑)。
水辺の再開発とか言って水辺の遊歩道とかレストランとか住居とか、ちょっと流行りというかファッション的なこともまぁいいけれど、(ま、新宿に住んでいたら余り関係はないけれど)日常生活にもっと水上交通があってもいいですよねぇ。隣町まで船でとか、陸だと混むから船でとか。水上マーケットじゃないけれど、八百屋さん、お豆腐やさん、魚屋さんとか、お茶とお貸しのお店とか、ちょっとした軽食を作ってくれる屋台とか、町からどんどん消えていってしまった個人商店が来てくれたら楽しいなぁ。